「お金とサービスの等価交換はつまらない」|美容師をしながら様々なイベントでカレーを提供する、カレー・ジョッキーの原動力とは?

取材:編集部、写真:加古伸弥

ジビエカレーやヴィーガンカレー、コーヒー風味のカレーなど、出店するイベントの空間やコンセプトに合わせてスパイスカレーを作る、カレー・ジョッキーことCJ。名前のインパクトが強いよね。もともと美容師だったけどコロナをきっかけにサロンを退職。そこからスパイスカレーを学び始めてたった1年半で大規模イベントにも出店するほどに。本業ではなかった分野で、どうしてこのスピード感で成長し続けられるのか。フレンドリーで柔和なCJさんの、内に秘める熱源を探ってきた。

ーー 早速ですが、今のスタイルでカレー作りをすることになったきっかけを教えてください。

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東京にきて9年間、ずっと美容師をやってたんだけどコロナで1ヶ月休業になって。それまで仕事しかしてなかったから何もしてない状態が落ち着かなくて、本を読んだり、動画編集を学んだりしていて。で、色々やってみる中で、カレーを食べるのは好きだけど店が開いてなくて、なら自分で作ってみようとYouTubeの動画を見ながら作ったのが始まりかな。

ーー その頃はまだスパイスカレーを作ったこともなかったんですね。

そう。で、作ってみて、単純に不味いわけ、最初は。というのも、それまで東京の色んなスパイスカレーをめっちゃ食ってて、美味いものを知ってたから。だけど、比べて何が不味いのかっていう差異も分かったから、じゃあ1ヶ月でめっちゃ美味くしてやろうと思って、それから毎日カレー作ってた。だから他にも並行して色々やりつつ、腹が減ったらカレーを作る、って感じで。あの1ヶ月はその為に生きてる感もあったね。

で、そのうちに作り過ぎて食べきれないときがあって。じゃあそれは配ろうと思って、UberEats的に(笑)。そうすると自分のカレー食べてもらって感想もらえるし、人にも会えるし、もう全部いいなって思って。しかも意外と評判良くて。そんな中で今シェアハウスしてるメンバーに出会って、カレー食べてもらって感想もらったりしてるうちに、今度イベントやるからカレーを出してみないか、って話になって。全く経験はなかったんだけど、だからこそやってみようってなって、それが1年前かな。

ーー いい出会いですね。ただそのタイミングでの初出店って緊張しませんでしたか?

そうそう、もともと料理とかしない人だったから、知らん人に食べてもらうって状態が不安すぎて。しかも始めて数ヶ月のやつがカレー出してお金を取るって、すげえプレッシャーだなと思ったんだけど、面白いことは基本好きだからやってみようって思って。

で、当日にフード出してるの結局俺1人で、イベントに来た人は全員俺のカレーを食べに来るって状態になってて。出して売って会話もしてって、めっちゃ忙しくて(笑)。でも全然知らん人が食べてくれて、美味しいです、とか次はどこでやってるんですか、とか言ってくれる状態が、あ、これめっちゃ楽しい。ってなって。美容師もやるけどカレー屋もいいなと思って、もともと美容師と何かを掛け合わせるような働き方に興味を持ってたのもあったから、その次の週にはサロンにカレー屋になるんで辞めますって伝えてたね。

ーー 一方で仕事を辞めることによる経済面の不安はなかったんですか?

そう、家賃払えなくなったら嫌だなって(笑)。で、どうしたらいいか自分で考えて、出た結論が ”家を捨てる” だったんだけど、それで家を出て、お世話になった友達や、同期とか先輩にカレーを作る代わりに泊めてもらう、っていうのを始めて。それでその人が食べたいカレーを、いわば髪型のカウンセリングな感じで訊いてオーダーメイドで作る、っていうことをしてたんだけど、これ経験としてめっちゃいいなって思って。というのはカレー・ジョッキーっていう名前で活動してて、これはDJ的に会場の雰囲気やコンセプトに合わせてカレーを変えるっていうのがテーマだったから、オーダーメイドで作れば作るほどその経験値になっていったんだよね。

ーー なるほど、家を捨てる決断やオーダーメイドの経験をするっていうのは、目的に対して確かに本質的です。カレー・ジョッキーのスタイルが定着した時期ですね。

そう、それでそのとき泊めてくれた人たちは今もよくイベントに来てくれるから、後から考えると実は集客にも重なってたのかな。

ーー 話は変わりますが、CJさんって誰かと仲良くなるのが上手いなっていつも思います。 ”お客さんと店員” という立場の垣根を越えるために工夫してることってありますか?

なんだろう。とにかく”与えまくる”っていうことかな。なんか、値段を払ってもらってその値段分のサービスを提供するだけ、っていう等価交換みたいなのがもうつまらないって思ってて。俺でいったらカレーは対価ではあるんだけど、例えば何かを紹介するとか情報や知識を与えることって、なんなら原価もかからないものだし、自分が持ってるものはいくらでも与えたいなっていう。

ーー 確かに、僕も色々紹介してもらっていますし、だからこそまた会いたいなって思うのかもしれません。

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多分俺のカレーってだいぶ良心的な値段で、普通スパイスカレーの2種盛りでアチャールとか漬物がついてたら1600円とかになるんだけど、俺は1000円以下で出したりしてて。だって、カレーに1600円とか払って食べにいくのって、多分カレー好きな人だけなんだよね。そうではなく俺はできるだけ多くの人に食べてもらいたくて。しかもできれば興味がない人に。もちろん手間や労力を考えるればこの値段はキツいんだけど、じゃないと広がっていかないから、俺の話したい人たちに。俺にとっても、お客さんから新しい情報をもらうことってめっちゃ多くて。

ーー こういう風にカレーを窓口にして、幅を広げていってるんですね。

あとは俺が行ったところがそういう空間、CJブースになるみたいな感覚があって、相性良さそうな、仕事とかに発展しそうな人同士を繋げたりとかしてる。例えばモデルとカメラマンとか、音楽のイベントだったら楽器をやってる2人、とか。

ーー その生まれた何かにCJさんも混ざっていく、っていうことですか?

いや、そうではないかな。仕事のために無理に自分を”差し込む”とかは嫌いなんだよね。ブースで出会って何かが生まれたら、あとは勝手にやってって感じ。また違う場所で会ったときに、あ、やってんなこの2人、って思ったり、そういうきっかけになれたことの方が嬉しくて、純粋に楽しいんだよね。

ーー そうか、だからお客さんにとっての価値はカレーだけじゃなくてCJさんを通して得られる情報や出会いだったりするし、CJさんにとっても、カレーも空間作りもどれも自分のやりたいことだから違和感なく仕事できてるんですね。

そうだね、なんか最初から意識してたわけではなかったんだけど、とりあえず美味いカレーは作りたいし、何回も食べにきてくれるお客さんを見るとやっぱり嬉しいし。結局動いていくなかで見えてきたことでもあるかな。

ーー 今後は何をしていこうと思ってますか?

この活動をしていくなかで、フードロス問題が気になってて。ホームレスやって色んな人の家でカレー作るとなると、冷蔵庫に余ってる野菜で作ることになるんだけど、やっぱ野菜ってちょっとずつ余るんだよね。でも野菜のヘタとか、皮とか、ふつう捨ててしまうところも調理次第では美味しくなるし、良い栄養も出るらしくて。それがすげえ自分にハマって。だから日常的に捨てられてしまうような、余った野菜を入れるだけでスパイスカレーを簡単に作れるペーストを作れば、全部解決できるなと思って。それでいまクラウドファンディングを立ち上げてる。

ーー CJさんのスタイルならではの解決方法でいいですね。このクラファンは、CJさん自身の活動の流れとしてはどんな位置付けなんですか?

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俺はこれをやることによって、次のフェーズにいける。ただカレーをイベントで出して人を喜ばせる、っていうスタイルはもう限界がきてて。この缶を持ってると各地域の野菜を使ったイベントができるし、そのイベントで農家さんも野菜を売ったりできる。俺は色んな紹介が得意だから、自分にアウトプットがあるともっと幅が広げられるんだよね。

ーー なるほど、自分の活動の延長がフードロス問題とかの解決に繋がるんですね。応援してます!

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